人生はステータスを競うゲームなのか?

生まれ落ちると同時に、人生の大海に放り出された私たちは、頼れる丸太にすがろうと必死です。人間が望むものは似たり寄ったりですから、己の欲するものを手に入れたければ、同じ対象に群がる多数との競争に勝たなければなりません。世の人が、互いに争って求めているものが2つあり、昔から「名聞利養」といわれています。「名聞」とは名声、俗にいうステータス(地位)であり、「利養」とは利益のことです。私たちが、お金と並んで、ひょっとしたらそれ以上に追い求めている「地位」について分析しましょう。

「ステータス」とは、ある集団で何番めにいるかという順位、階級、ランクのことです。「社会的地位」ともいわれ、会社での役職に始まり、出身学校のレベル、競技における格付け、芸能界なら人気、日常生活では近所の評判も含まれます。自分の上には何人いて、下は誰か、順位が気にならないでしょうか。

人生相談に出ていた話ですが、あるお母さんが、子どもの成績に一喜一憂して悩んでいます。塾に行かせ、勉強を見てやってサポートしているのに、結果が伴わず、落ち込んでいるそうです。子どもが「友達はスマートフォンを持っているよ」とか、「ディズニーランドに連れていってもらったんだって」と話そうものなら、「よその家はよその家」と言い切るのに、当の本人は、わが子の成績が何番か、気になってしかたありません。口うるさい自分に嫌けがさし、どうしたら子どもに過度な期待をせず、寛大で笑顔の母親でいられるのか、助言を求めていました。

残念ながら、常に他人と比較してしまう癖は、本能に根ざしたものであり、これがなければ生きていけないとさえいえるものです。人間の実態を知るために、ヒトに最も近い動物であるチンパンジーの行動を観察してみましょう。

人類とチンパンジーは、約700万年前に共通の祖先から枝分かれして、それぞれ独自の進化を遂げたというのが定説です。初期の人類は、外見はチンパンジーとそっくりですが、チンパンジーが樹上で生活するのに対し、主に地上で生活していたと想像されています。

チンパンジーの群れにおいては、上から下まで順位がつけられており、トップは「アルファオス」と呼ばれるオスです。オスは基本的に、どのメスよりも順位が高く、メスにも順位があります。このランク付けは頻繁に変わるので、固定したものではありません。ランクが上がる基準は複雑で、オスかメスかによっても異なります。

いくらアルファオスに腕力があっても、ナンバーツーとナンバースリーが結託したら、ひとたまりもありません。そこで、上位のオス同士で親密にしていたら、仲違いをさせるという政治ゲームも必要になります。ですからチンパンジーの社会では、ケンカに強いだけでは出世はできませんが、それでもオスが好戦的であることに変わりはありません。ヒトが肉体的な暴力を振るう頻度は、チンパンジーの1パーセントにも満たないといわれます。彼らの群れは、人間社会より数百倍から数千倍も攻撃的なのです。

戦争を繰り返している人類が、チンパンジーより平和的とは信じがたいでしょう。しかし、それを明らかに示しているのが、前から3番めの「犬歯」といわれる菱形の歯です。これは肉食動物が獲物を捕らえ、切り裂くための「牙」にあたる歯で、チンパンジーには鋭い牙があります。ところが人類は、700万年前にチンパンジーと袂を分かって以来、犬歯が縮小を続け、今や文字どおり牙を抜かれてしまっているのです。

(『月刊 人生の目的』令和6年4月号より一部抜粋)

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