物理的な欲を満たしても別の不満が生じる

私たちが強く求めている利益(お金)と名声(地位や評判)は、どれだけ手に入れようと、すぐ慣れてしまい、喜べなくなることを見てきました。今回は別の角度から、人間の欲にキリがない理由を分析しましょう。

欲望について考える時に便利なのが、心理学者マズローの欲求階層説です。この理論によれば、人間の欲する代表的なものが5つあります。しかもそれらには順番があり、一つの欲求がそれなりに満たされると、次の不満が現れるというのです。5つの欲を簡単に説明しましょう。

食べ物や飲み物、睡眠など、生き延びるために必要なものを求める本能的な欲求で、性欲も含まれます。中でも強力なのが食欲で、極度に飢えている時は、食べること以外は考えられなくなるでしょう。しかし、ある程度、食欲が満たされると、もっと高いレベルの欲求が生じます。

安全な環境を求める心で、具体的には、犯罪や災害のない安全な所に住みたい、収入の安定した職に就きたい、法に基づいた秩序ある社会で暮らしたいなどの欲求をいいます。これも生理的欲求と同様に、強いものです。

「社会的欲求」とも呼ばれる、人とのつながりを求める欲求です。どんなに裕福でも、孤独で誰からも愛されなかったら、耐えられないでしょう。衣食住という物質的なものが満たされたら、次は家族や恋人、友人、仲間との良好な関係を求めるようになるのです。

人との関わりが生まれ、孤独が解決されると、今度は、自分が属する集団の中で、高く評価されたいという願望が生じます。先回、取り上げた名誉欲のことで、地位や名声を求めたり、よい評判や信頼、注目を集めようとしたりするのは皆、この「承認欲求」です。

他人から褒められれば、自分は有能だ、役に立つ存在だという自信も生まれるでしょう。逆に、承認欲求が満たされないと、焦りや劣等感が生じ、自分の存在は無価値という感覚に襲われます。

インターネットでうそや悪口など、有害な情報をばらまいて、有名になろうとするのは、承認欲求の大きさを物語っています。

自分の能力を最大限に発揮して、成長したいという欲求です。自己実現を果たしたと思われる人物として、マズローは、科学者のアインシュタイン、医師のシュバイツァー、哲学者のスピノザなどの名前を挙げています。


もちろん、こんな単純な法則がすべての人間に当てはまるはずはありませんから、マズロー自身も「5つ」という数をそれほど強調していませんし、人によって優先順位が異なることも認めています。マズローの説を紹介する時に、必ずといってよいほど、ピラミッド状の図が示されますが、分かりやすい反面、単純化しすぎているので注意が必要です(上図参照)。

(『月刊 人生の目的』令和6年5月号より一部抜粋)

続きは本誌をごらんください。


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