「おいしいレストランに行こう!」と誘われたらワクワクしますが、「人生の目的を考えよう!」と提案されたら、「何を面倒なことを言うのやら……」と、不愉快な思いをする人が多いでしょう。
(中略)
ソクラテスは、大衆の怒りを買った
人生の目的を考えるように勧められると、イラッとするのはなぜでしょうか。脳は「無駄なことは考えず、楽をしたい」のに、その睡眠欲が妨げられるから、腹が立つのです。
たいていの人は、周囲と同じような生き方をすることによって、「自分の生き方は正しい」と思い込んで、満足しています。しかしその信念に、確固たる根拠はありません。だから、ふとした瞬間に、「自分の人生は、これでよいのか」という疑問が頭をよぎるのです。ですが、そんな面倒な問題は忘れて、というより、忘れるために、五欲にひたって、「人生なんて、こんなもの」と自分に言い聞かせているのが、実態ではないでしょうか。
そんな人たちに、「五欲を満たす人生ならば、生存(食欲・睡眠欲)と生殖(色欲)が目的で生きる動物と、変わらないのではありませんか」「生きるために生きる人生で、満足ですか」などと問いかけるのは、心地よく寝ているところをたたき起こすのと同じでしょう。「寝た子を起こす」とは、このことです。ところがよりによって、そんな腹立たしいことをライフワークにして、周り中に敵を作った哲学者がいました。
紀元前5世紀に古代ギリシアで活動した、ソクラテスです。
ソクラテスの重大な発見「私」と、「私の体」は別
人生、いかに生くべきか。この問いに生涯を捧げたソクラテスの重大な発見は、「私」と「私の体」を区別したことでした。
私の家や時計、車は、「私の持ち物」であって、「私」ではありません。「持ち物」と「持ち主」は、全く違います。だから家をリフォームしても、私が改造されるのではありませんし、時計を買い換えたからといって、私が別人に生まれ変わることもありません。
マイカーが自分を運ぶ道具であるように、「体」も私が利用する一種の道具であり、所有物です。身長や体重が増えようと、事故で手足を失おうと、私そのものは増えも減りもしません。
では、体の持ち主である「私」とはいったい、何なのでしょうか。
(『月刊 人生の目的』令和6年8月号より一部抜粋)
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哲学を超えた世界が『歎異抄』
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