フランス、ドイツなどにも伝わった
親鸞聖人のエピソード
親鸞聖人(しんらんしょうにん)は、大雪の晩に、命の危険にさらされながらも、仏法を伝えられたことがありました。右ページの墨絵のように、民家の門の下で、石を枕に、雪を褥( 布団)にして休まれたのです。
そして、寒風吹きつける中で、親鸞聖人は、次のような歌を詠まれました。
「寒くとも たもとに入れよ 西の風 弥陀(みだ)の国より 吹くと思えば」
水戸黄門(徳川光圀)が、この歌のいわれを知って感動したと伝えられていますので、江戸時代には、広く知られていたのでしょう。
また、大正時代には、劇作家の倉田百三が、このエピソードを題材にして戯曲『出家とその弟子』を書きました。出版されるや大ベストセラーとなり、空前の親鸞聖人ブームを巻き起こします。フランスの作家ロマン・ロランが大絶賛し、フランス語、英語、ドイツ語などにも翻訳されました。これによって、親鸞聖人の名は、一気に世界に広まったのです。
親鸞聖人の、このエピソードは、茨城県常陸太田市の枕石寺(ちんせきじ)に伝えられています。枕石寺を訪ねて、詳しく調べてみましょう。
水戸駅から車で、国道349号線を北へ向かって30分ほど走ると「道の駅ひたちおおた」がありました。立ち寄ってみると、この辺りは「黄門の郷」と呼ばれているだけあって、水戸黄門、助さん、格さんのパネルが迎えてくれました。
この道の駅から、車で5分ほど走った山田川のそばに、目的地、枕石寺がありました。本堂の前には、「親鸞聖人雪中枕石之聖蹟」と刻まれた石碑が建っています。今から約800年前、ここで、何があったのでしょうか。
『枕石寺縁起』には建暦2年(1212)11月27日のことだったと記されています。
親鸞聖人が二人の弟子と共に、稲田の草庵*を出発して、常陸*の東北部へ布教に赴かれた時、大雪のため、道に迷ってしまわれたのです。日が暮れてきましたが、どこにも宿がありません。山のふもとで、ようやく明かりのついた一軒家が見つかりました。
玄関の戸をたたき、「道に迷い吹雪で難儀しています。一夜の宿をお借りできないでしょうか」と頼むと、この家の主・日野左衛門(ひのざえもん)は、「おれは坊主は、大嫌いだ」と拒絶します。それだけでなく、「出ていかないと、たたき殺すぞ」と暴力を振るって、親鸞聖人と弟子たちを追い出したのでした。
あまりの仕打ちに、弟子たちは憤慨します。しかし、親鸞聖人は、「あのような日野左衛門にこそ、『どんな人をも、必ず助ける、絶対の幸福に』と誓われた阿弥陀如来(あみだにょらい)の本願をお伝えしたい」と諭されます。
日野左衛門の家の玄関を出られ、やむなく門の下で、凍てつく夜を明かされることになりました。
親鸞聖人は、門扉を止める石を枕にして横になられたのです。情け容赦なく冷たい西風が吹きつけ、体には白い雪が積もっていきます。
このままでは朝を迎える前に凍え死ぬかもしれません。師匠の身を案じる弟子たちに、親鸞聖人は、次のように語りかけられました。
「寒くとも たもとに入れよ 西の風 弥陀(みだ)の国より 吹くと思えば
南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)、南無阿弥陀仏……。
阿弥陀如来からお受けした、大きなご恩を思えばなあ、親鸞、ものの数ではない」
「寒くとも……」の歌には次のような御心が詠み込まれていると拝察します。
「この西の風は、弥陀の浄土から吹いているように思われる。だから衣の袖に入り込む寒風も、親鸞、拒みはしない。ただ知らされるのは、阿弥陀如来の広大なご恩である」
*稲田の草庵……現在の茨城県笠間市稲田にあった親鸞聖人のお住まい
*常陸……現在の茨城県
(『月刊 人生の目的』令和7年1月号より一部抜粋)
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