親鸞聖人、関東でのご苦労（２）－山伏・弁円は、ガラリと生まれ変わり、親鸞聖人のご恩に泣いた

親鸞聖人を亡き者にしようとする山伏が、関東に現れました。

名を、弁円（べんねん）といいます。

しかし、板敷山で親鸞聖人（しんらんしょうにん）を襲撃する計画は、見事に失敗！

怒りに燃える弁円は、白昼堂々と剣を振りかざし、「親鸞、出てこい！」と叫びながら、稲田の草庵*へ押しかけたのです。

ところが、そんな弁円も、親鸞聖人にお会いするや、みるみる敵意が消えていきました。自分が間違っていたことに気づいた弁円は、聖人のお弟子となり、「明法房（みょうほうぼう）」と生まれ変わったのです。

アニメ映画『歎異抄（たんにしょう）をひらく　関東の親鸞』の中で、最もドラマチックなシーンです。

では、弁円とは、どんな人物だったのでしょうか。

なぜ、親鸞聖人に危害を加えようとしたのでしょうか。

親鸞聖人のご苦労を明らかにするために、茨城県での取材を続けます。

「幸せは、呪文や祈禱では得られない」
真実の仏法を明らかにされる親鸞聖人

弁円（明法房）が、親鸞聖人のお弟子になったあとに開いた寺が、常陸大宮市にあります。法専寺です。弁円の経歴を知るために訪ねてみましょう。

ＪＲ 水戸駅から車で向かうと、約40分で到着しました。法専寺の山門前には、茨城県知事の筆跡で、「元之山臥辨円　明法御房之聖蹟　開基往生之地」と刻まれた石碑が建っています。

「元は山伏・弁円であった明法房が開いた寺であり、72歳で亡くなるまで、親鸞聖人の教えを守り、阿弥陀仏の本願を伝えた由緒ある場所である」という意味です。

第29世住職・本多隆海（ほんだ りゅうかい）さんにお会いし、弁円について詳しくお聞きすることができました。

『法専寺略縁起』によると、弁円は、平清盛の孫だったと伝えられています。

しかし、元暦２年（1185）、壇ノ浦の戦いによって、平家は源氏に滅ぼされてしまいます。弁円、６歳の時でした。

弁円の父も兄も源氏に捕らえられ、処刑されました。幼い弁円は、命からがら逃げ延びたのでしょう。その後の消息は不明ですが、18歳の時に京都で修験道に入門し、「播磨公弁円（はりまのきみべんねん）」と名乗るようになりました。

修験道とは、経文や呪文を唱えて、病気治しや厄除けの祈祷をするものです。その行者を「山伏」といいます。

弁円は山伏として頭角を現し、その名は、全国に知れ渡ったのです。

では、なぜ弁円が、関東に現れたのでしょうか。

自分から流れていったのではありません。常陸（ひたち）*の国主・佐竹秀義に招かれたのです。これは弁円にとって、大変な出世でした。

当時の関東では、仏教といえば、家内安全、病気平癒などの厄除けの祈祷だと思われていました。佐竹秀義も、仏教の力で領内を平安に治めようとして、祈願所・法徳院を建立し、京都から有名な山伏・弁円を招いたのです。

弁円は、国主から寺領500石を与えられました。大きな経済力を持っていたことが分かります。

また、末寺の数は35に達し、弟子も100人以上いたといわれます。

まもなく関八州（関東全域）の山伏の最高指導者となり、民衆の尊敬を一身に集めるようになりました。まさに弁円は、関東の輝ける星だったのです。

寺領五百石を賜り、後に関八州総司となり、末派三十五坊を総欖し、門弟百余名を擁し、崇敬を得て、権勢国中を風靡せり。

（『法専寺略縁起』）

しかし、親鸞聖人が稲田の草庵を拠点に布教を始められるや、風向きが大きく変わるのです。

親鸞聖人は、「呪文や祈祷で幸せになれるとは、どの経典にも説かれていない。迷信だから、捨てなさい」と断言され、「阿弥陀仏は、どんな人をも、必ず絶対の幸福に助けると誓われています。私たちの救われる道は、阿弥陀仏の本願以外にはないのです」と説かれました。

初めて真実の仏教を知らされた人々は、「もっと親鸞聖人の教えを聞きたい」と、次々に稲田の草庵へ参詣するようになったのです。

このため、弁円に祈祷を頼みに来る者は激減したのでした。夜空に輝く星も、太陽が昇ると色を失うように、弁円の名声は急速に衰えていきます。

*稲田の草庵……現在の茨城県笠間市稲田にあった親鸞聖人のお住まい

*常陸……現在の茨城県

（『月刊 人生の目的』令和６年12月号より一部抜粋）

続きは本誌をごらんください。