51歳・女性
物忘れや言い間違いが多くなった高齢の父に、どう接すればいいのでしょうか
82歳になった父は、曜日や人の名前を間違えて言うことがあります。初めのうちは、間違いを正していたのですが、そうすると、情けないような顔をするので、申し訳なく思い、大きな問題がなければ、笑って相槌を打つようにしていますが、これでいいのでしょうか?
年相応のことなのか、認知症の症状なのか、判断できないので、病院に行こうと勧めるのですが、本人は「行きたくない」と言います。
明橋大二先生
年を取ると、誰でも忘れっぽくなります。人の名前が出てこない、物をしまった場所を忘れる、などは、どんな人でも経験することではないかと思います。
私はよく患者さんから、「最近、忘れっぽくなった。認知症ではないか」と聞かれることがあります。単なる物忘れは、自然な脳の老化現象ですが、認知症は病気です。ではどこが違うのか。
私は端的にこのようにお答えしています。「朝ごはんに、何を食べたか思い出せないのは、物忘れ。朝ごはんを食べたこと自体を忘れるのが認知症」
年を取ると、今日の朝ごはんに何を食べたか、思い出せないことはあると思います。しかし朝ごはんを食べたこと自体は覚えています。これはまだそれほど病的な状態ではありません。しかし認知症になると、朝ごはんを食べたこと自体を忘れてしまいます。ですから、認知症の人は、朝ごはんを食べたのに、「まだ朝ごはん食べとらん! まだか!」と怒るのです。いくら、「さっき食べたでしょ?」と言っても本人には記憶がないので、最後はけんかになってしまいます。
さて、ご質問の方のお父さんについてですが、文面だけでは病的なものかどうか判断はできませんが、いずれにせよ、加齢による記憶障害が出てきておられる状態なのだと思います。
このような物忘れに対して、その間違いをいちいち指摘することは正しいか、正しくないか。これについては、介護の現場でははっきり結論が出ています。
「記憶の間違いをいちいち指摘することはよくない」です。
なぜなら、このような物忘れによって、家族ももちろん困りますが、いちばん困っているのはお父さんご自身だからです。だからこそ、「情けないような顔」をされるのだと思います。
自分の記憶が、不確かなものになり、家族に迷惑をかけている。自分に自信をなくし、「これからどうなるんだろう」と不安になっている。そういう時に、周囲から何度も間違いを指摘されると、さらに自信をなくして意欲を失ったり、「バカにして!」と腹を立てたりすることになります。間違いを指摘しても、状態が改善するどころか、よけい逆効果になるのです。
(『月刊 人生の目的』令和6年6月号より一部抜粋)
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