「なんのために生きる?」問いかけてくる「アンパンマン」|作者、やなせたかしさんの願いと『歎異抄』の世界

この春にスタートするNHK朝の連続テレビ小説「あんぱん」の主人公は、人気アニメ「アンパンマン」の作者、やなせたかしさんと暢さん夫妻がモデルです。

日本が軍国主義の道を進む中、自らも従軍したやなせさんの体験は、その作品にも大きな影響を与えたといわれます。

正義のヒーロー、アンパンマンには、どんな願いが込められていたのでしょうか。

生前のやなせさんと親交のあった漫画研究家、中野晴行さんに聞いてみました。

「子どもの頃から、学校の図書館の本は片っ端から読んでいました」という中野さん。編集者となってからは、手塚治虫、水木しげる、里中満智子ら人気マンガ家との交流も深め、『漫画家たちの戦争』全6巻などの著作・編書は30冊を超えます。

中野 直接お会いしたのは27年前かな。最後にインタビューをしたのはちょうど12年前です。やなせさんは当時、94歳。亡くなられる少し前のことです。戦争体験についてお聞きしたいとお願いすると、初めは「大した体験じゃないから」と渋っていましたが、なんとか引き受けてくれました。

当時、私は、子どもたちが戦争の犠牲にならないよう、子どもたちが戦争を自分の問題としてとらえられるようにするにはどうすればいいかを考えていて、それには、子どもたちが好きなマンガ家に戦争体験を語ってもらうのがいいのでは、と思ったのです。

中野 印象深かったのは、次のような言葉です。

「軍隊というところは、失敗したら殴られる。失敗しなければ生意気だと言って、もっと殴られる。それでどんどん頭がおかしくなっていく。だから、敵陣に『突っ込め!』と命令されたら、もう何も考えられず突っ込んでしまうんだ」と言われるのです。

国家の名のもと、若者たちが戦場に駆り出され、自分の人生の意味を考えることも許されないまま次々に死んでいったことへの、やなせさんの憤りが伝わってきました。本のタイトルを相談した時には、「ぼくは戦争は大きらい」と、紙に書いてくださいました。

中野 やなせさんにとってつらかったのは、たった一人の弟、千尋さんを亡くしたことでしょう。

やなせさんが福岡県・小倉の連隊にいた時のことです。ある日、千尋さんが訪ねてきて、「特別任務につくため、最後のあいさつに来ました」と言うのです。驚きのあまり、やなせさんは「なんでそんなものを志願したんだ!」と怒ったそうです。

結局、千尋さんは、帰還する見込みのない潜水艦の特攻作戦に志願して、移送中の船が沈没して命を落としてしまいます。

若者たちは、戦場に駆り出され、次々に死んでいった(第二次世界大戦)

やなせさん兄弟は、幼い頃に父親を亡くし、母親とも別れ、伯父夫婦に預けられます。でもその伯父も亡くなり、千尋さんまで失ったのです。後に書いた『やなせたかしおとうとものがたり』という詩集には、「弟よ 君の青春はいったいなんだったのだろう」と、その悲しみが切々とつづられています。

戦争中は、「お国のために命を捧げる」ことが、生まれてきた目的のようにいわれながら、終わってみれば、いったい何のための戦いだったのか。だまされていたという怒りと悲しみは強烈だったと思います。だから「人間のやることに、絶対的な正義なんてないんですよ」といつも言われていました。

中野 ある日、「なぜ、アンパンマンは顔を食べさせるのか」という話題になった時です。やなせさんは「戦争はとにかく腹が減って大変なんだ」と話してくれました。

「いろいろつらいことはあっても、人間一番、つらくて情けないのは、おなかが減ること。おなかが減ると、相手を裏切ってでも食べたいと思うから、どんどん人間じゃなくなっていくんだ」と言われます。

実は、初代のアンパンマンは、空腹の人がいたら、アンパンを配って助けるというヒーローでした。でも、やなせさんは、それではもの足りず、「食べるものがなくなったら、自分を食べてもらおう。パンなら食べてもらうことが幸せなんだから」と考え、自分の顔を食べさせる今のアンパンマンが誕生したのです。

顔を食べさせるのを「残酷だ」と言う人がいますが、そこには、やなせさんの思いが込められているのです。決して相手を見捨ててはいけない、喜びも哀しみも分かち合うことが大切だ、という願いですね。

そんなやり方は、人間を超えて、どこか仏さまの慈悲に近いものを感じさせますよね。

戦争での体験から、やなせさんは、人はどうあるべきか、生まれてきた目的は何か、そんな心の底からわいてくるような問いに対して、常に真摯に向き合い続けたのでしょう。

(『月刊 人生の目的』令和7年3月号より一部抜粋)

<続きの主な内容>

  • 「アンパンマンのマーチ」と人生の目的
  • 不安と孤独感が「闇バイト」も正義に
  • 「火宅無常の世界」だからいつも不安は消えない
  • 『歎異抄』を読むと素晴らしい言葉に出合える

全文は本誌をごらんください。


\ お得定期購読はこちら /
書店ではお求めになれません
月に1回お届けします(定価:税込700円)



お問い合わせ・ご注文はお電話でも承ります

0120-949-450

(平日:午前9時~午後6時、土曜:午前9時~12時)


\ 最新号から定期購読できます /
書店ではお求めになれません
定期購読なら[最大30%オフ・送料無料]


【 最新号 】 4月号



A4変型
,88ページ,オールカラー
3月25日発売 定価:700円(税込)

大ヒット!全国順次上映中
劇場版アニメ『親鸞 人生の目的』

芸能活動60年 福祉活動65年
杉 良太郎さんが親鸞聖人役に挑戦

巻頭企画


苦しくとも、なぜ生きるのか
変わらぬ幸せを求めて……

アニメ映画『親鸞 人生の目的』に学ぶ


因果の道理(いんがのどうり)
不幸を避けて幸せになるための大切な心構え

1からわかるブッダの教え 令和版 仏教辞典


形にとらわれて、その心を失えば、
哀れむべき道化役者となる
少年時代に水ガメを割った司馬温公
光に向かって 高森顕徹


Q.孫が自分で自分の腕に、多数の傷をつけています。
 どう関われば……

こころの相談室 心療内科医・明橋大二


 

東海道での出会い(2)
三河の柳堂でのご説法
◯ 歎異抄の旅 
木村耕一


「生きがい」って、なんだろう
私たちは、なぜ生きるのか 哲学者・伊藤健太郎


フランスの人々に届いた
「なぜ生きるのか」の答え

◯ヨーロッパ通信 
中村 マウロ


春のすまし汁たけのこの葛餅入り ほか
◯野菜が主役なお料理ガイド
 野菜料理家・月森紀子


破れた茶封筒に書かれていた母からのエール ほか
親のこころ


祇園精舎の建立 その二
漫画 ブッダ 古澤たいち


困っている人を守る国の制度
生活保護の仕組みとは

これから先の不安に答える 弁護士・小堀秀行