エドワード・サイデンステッカー教授
「『なぜ生きる』は、日本の自殺を減少させた本だ」
海外の、ある出版関係者が、こう語ったことがあります。
確かに、年間3万人を突破していた自殺者数は、『なぜ生きる』が2001年に発刊されると、まもなく減少へ向かっています。
尊い命を自ら絶つ人が多いのは日本だけではありません。どの国も同じ課題を抱えています。だからこそ、『なぜ生きる』を全世界へ届けることが急がれているのです。
『なぜ生きる』には、「どんなに苦しくてもあきらめないで。あなたはやがて、大きな幸せに恵まれるのですよ。人生には大切な目的があるのです」と、親鸞聖人(しんらんしょうにん)の温かいメッセージが記されています。
しかし、親鸞聖人の教えを、日本語から外国語へ翻訳する作業は、並大抵のことではありません。まず英語への翻訳が、2001年からスタート。約5年の歳月を経て、『YOUWERE BORN FOR A REASONThe Real Purpose of Life』(英語版『なぜ生きる』)が発刊されました。
そこには、どんなドラマがあったのでしょうか。
これまで、詳細には報道されてこなかった経緯を、翻訳者のジュリエット・カーペンター教授、翻訳チームの高瀬アリセさん、落合純恵さんにインタビューしました。
3人は一致して、「エドワード・サイデンステッカー教授の功績は、とても大きかった」と語ります。
サイデンステッカーさんは、アメリカのコロンビア大学、ハワイ大学などの名誉教授であり、日本文学研究の第一人者でした。
川端康成が、『雪国』で、日本人初のノーベル文学賞を受賞したのも、サイデンステッカー教授の名訳があったからだといわれています。
このように、日本文学の国際化に尽力したサイデンステッカー教授が、晩年、『なぜ生きる』を手にした時、「この本は、厳粛にして深遠な書である」と真価を見抜き、英訳の監修を引き受け、翻訳チームをリードしていったのでした。
「日本人の精神を、美しいとさえ思った」
(中略)
樋口一葉、永井荷風、谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫などの作品を、100冊以上も英訳し、世界へ発信していきました。その格調高い英文は、今も高く評価されています。
中でも1968年に、『雪国』で川端康成を日本人初のノーベル文学賞受賞へ導いたことは最大の快挙でした。
川端康成が「ノーベル賞の半分は、サイデンステッカー教授のものだ」と語ったほどですから、翻訳者の役割が、いかに大きいかが分かります。日本語で書かれた作品が、世界で読まれるかどうかは、翻訳者の力量にかかっているともいえるのです。
サイデンステッカー教授は、自分が英訳した現代の作品の中で、「いちばんむつかしく、いちばん面白かったのは『雪国』でした」と語っていますので、その苦労のほどがうかがえます。
また、『源氏物語』全54帖の英訳を、15年もの歳月をかけて成し遂げ、1976年に出版されました。その名訳によって、サイデンステッカー教授の名は、ますます世界へ知れわたったのです。
サイデンステッカー教授は、70歳を過ぎた頃、自分の人生を振り返り、大阪で行われた講演で、次のように述べています。
「もっとも歓ばしい事件は、川端さんのノーベル賞受賞です。(中略)私にとってこの50年の最高点、最大のクライマックスでした*」
「『源氏』の英訳が完成して以後、翻訳の仕事はほとんどしておりません。最高の作品、そして最大の努力を要する作品を訳してしまったとなると、ほかのものに手をつける気が起こらないとしても当然でしょう*」
日本文学を世界へ発信するという大役を果たした満足感があふれています。
晩年のサイデンステッカー教授は、アメリカの複数の大学で日本文学を講じながら、幅広い文化活動を展開していました。
そんなサイデンステッカー教授がハワイに滞在している時に、高瀬アリセさんが、高森顕徹先生の『なぜ生きる』を届け、翻訳を依頼したのです。
その時の、サイデンステッカー教授の驚きは、「『なぜ生きる』は、厳粛にして深遠な書である」という言葉に象徴されています。日本の古典、現代文学の名作を知り尽くし、「もうほかのものに手をつける気が起こらない」とまで語っていた教授の心に、熱い火がついた瞬間でした。
「私は、もう80歳を超えているので、直接、英訳することは難しい。一流の翻訳者を選び、その監修者として翻訳を完成させたい」と、翻訳の監修を引き受けたのです。サイデンステッカー教授の胸に、「『なぜ生きる』こそ、日本が誇る書籍として、全世界へ届けるべきだ」と、人生最後の翻訳に着手する決意がわき起こったのだと思われます。
『なぜ生きる』の翻訳者は、同志社女子大学のジュリエット・カーペンター教授に決まりました。
サイデンステッカー教授が認める一流の翻訳者であり、愛弟子でもあります。その活躍は、児童書から、詩、純文学、ミステリーに至るまで幅広い分野にわたり、安部公房、司馬遼太郎、俵万智、渡辺淳一、宮部みゆきなどの作品を、100冊以上も手がけている現代日本文学英訳の第一人者です。
*『日本との50年戦争』より
『なぜ生きる』英訳の大事業、始まる
『なぜ生きる』には、親鸞聖人のお言葉で、人生の目的が「ある」ことが明示されています。
「やがて死ぬのに、なぜ生きるのか」は、人類が続く限り、問われ続ける根本問題です。だからこそ、高森顕徹先生が、「千年後の人にも読まれるように」と願われ、想像を絶するご苦労で執筆されたのでした。(その経緯は本誌1月号に詳しく掲載されています)
今度は、『なぜ生きる』を世界の人々に届けるために、高森顕徹先生のもとに、サイデンステッカー教授とカーペンター教授という最高の翻訳者が集い、プロジェクトチームが結成されたのです。
(『月刊 人生の目的』令和7年2月号より一部抜粋)
<続きの主な内容>
- 英語から世界各国の言語へ
- 「最後は、浄土真宗で」サイデンステッカー教授の願い
全文は本誌をごらんください。
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日本文学の国際化に尽力した
サイデンステッカー教授の功績
川端康成『雪国』をノーベル文学賞に。
『源氏物語』全54帖の完訳。
そして最後に『なぜ生きる』を全世界へ!
◯ 巻頭企画
往生(おうじょう)
往生には二つある
◯ 1からわかるブッダの教え 令和版 仏教辞典
不屈の精神で勉学に励んだ勝海舟
◯ 光に向かって 高森顕徹
Q.中学生の孫が、家事、父親の介護、弟の世話までしているので心配です
◯ こころの相談室 心療内科医・明橋大二
アパートを退去する時の注意点
◯ これから先の不安に答える 弁護士・小堀秀行
聞法の熱気あふれる
親鸞聖人の稲田の草庵
◯ 歎異抄の旅 木村耕一
「愛」は幸せの源か、涙の原因か
◯ 私たちは、なぜ生きるのか 哲学者・伊藤健太郎
ドイツ語版『なぜ生きる』ついに発刊
◯ヨーロッパ通信 中村 マウロ
「厄年」は根拠のないでたらめである
◯「人生の目的」を考えるヒント 木村 耕一
野菜が主役なお料理ガイド
◯かぶとにんじんの中華風ピリ辛マリネ ほか
野菜料理家・月森紀子
両親からのメールで笑顔を取り戻せた ほか
◯ 親のこころ
給孤独長者の聞法
◯ 漫画 ブッダ 古澤たいち