古典『歎異抄』を、世界の人々へ

 ボリス・アクーニンさん

古典『歎異抄(たんにしょう)』には、衝撃的な言葉が多く記されています。その中でも有名なのが、「善人なおもって往生を遂ぐ、いわんや悪人をや」でしょう。

「善人でさえ、浄土へ生まれることができるのだから、ましてや悪人は、なおさら往生できる」という意味です。

こう聞くと、「それは逆でしょう。なぜ、善人よりも悪人なのですか?」と疑問がわいてきて当然です。

しかし、簡単には否定できない奥深さを感じて、「悪人とは?」「人間とは?」と、考えずにはいられなくなる人が多いのではないでしょうか。

ロシア出身のベストセラー作家、ボリス・アクーニンさんも、『歎異抄』に魅了された一人です。

日本文学の研究者で、翻訳家でもあったアクーニンさんは、40歳から小説を書き始め、探偵小説の「エラスト・ファンドーリンの冒険」シリーズが大ベストセラーとなりました。

2014年から活躍の場をイギリスに移し、ベストセラーを次々と世に送り続けています。

「アクーニン」には「悪人」という漢字を当てはめることができます。もしかしたら、『歎異抄』と関係があるのかもしれません。

アクーニンさんにメールで問い合わせてみると、やはり、『歎異抄』の「悪人」を、ペンネームにしたことが分かりました。

はたして、ヨーロッパの人気作家と『歎異抄』には、どのような関係があるのでしょうか。イギリスの首都ロンドンで、アクーニンさんにインタビューしました。(編集部)

アクーニン あなたの推測は正しいです。「アクーニン」は、『歎異抄』の「悪人」を暗示しています。私は歴史小説『ナットシェル ブッダ』を執筆中に、浄土真宗、特に親鸞(しんらん)の教えに興味を持つようになりました。

この小説の物語は、「弥陀(みだ)の五劫思惟(ごこうしゆい)の願をよくよく案ずれば、ひとえに親鸞一人が為なりけり」という、『歎異抄』の有名な言葉から生まれたのです。

私は宗教を好む人間ではありません。常に自分の人生に役立つ思想や啓示を求めて、さまざまな宗教の哲学的な側面にのみ興味を持ってきました。

アクーニン 学生の頃だったと思います。仏教の教えに関する試験が終わってから、長い間、忘れていたのですが、作家になる時に、再び、『歎異抄』を思い出したのです。

アクーニン 私は40歳で初めて小説を書きました。

その時、一つのテーマで一貫した16のタイトルからなるシリーズを刊行する計画を立てたのです。

どのような小説にするか、慎重に計画を練り上げていく過程で、私は「悪人」とは何かを研究しました。その時に、『歎異抄』の「悪人正機」*という思想に引かれたのです。私は、16種類の悪人のタイプを作ることを決め、それぞれを、小説の主人公にしました。これが、「アクーニン」をペンネームにしたきっかけです。

私が関心があったのは、外見は、魅力的であったり、カリスマ的であったり、善人であったりする人間の心の中には、巨悪がひそんでいることです。

『歎異抄』でいわれる「悪人」とは、私たち一人一人の心の中を表しているのではないでしょうか。だから『歎異抄』が救おうとしている真のねらいは、他人のことではなく、あなた自身なのです。自分の内にいる「悪人」を見つめることが大切なのではないかと、私は思っています。

アメリカで、借金に苦しんでいる男が、わが子(息子と娘)に保険金をかけ、毒入りのキャンデーを渡して殺そうとした事件がありました。この男は、自分に疑いがかからないようにするために、近所の子どもたちにも毒入りキャンデーを渡していたのです(結果的に亡くなったのは彼の息子一人でした)。

ブッダは、このろくでなしの悪人を救うことができるのでしょうか?

問題は、こういう悪人が救われないかぎり、ほかの人たちも救われないということだと思います。

*悪人正機……悪人を救うのが、阿弥陀仏の本願、ということ

(『月刊 人生の目的』令和8年3月号より一部抜粋)

88ページ/A4変型
定価:700円(税込)

全文は本誌をごらんください。

『月刊 人生の目的』は書店ではお求めになれません。
ネットショップまたはお電話にて、ご注文ください。
単品注文は、税込1万円未満の場合は送料350円となります。
定期購読は送料無料でお得です。


\ お得定期購読はこちら /
定期購読なら[最大30%オフ・送料無料]
月に1回お届けします


スマホ用画像
PC用画像

お問い合わせ・ご注文はお電話でも承ります

0120-949-450

(平日:午前9時~午後6時、土曜:午前9時~12時)